コンサルティングの落とし穴-①大企業と中小企業の違い

大学卒業後、日系企業で社会人スタートして、米系、欧州系企業でも勤務をしました。会社の規模も何万人という従業員のいる大企業もあれば、200人あまりの中小企業、10人未満の子会社と様々です。そうした経験を通じて感じたのは、大企業と中小企業では色々な面で違いがあるという事です。

その中でも一番大きな違いは、やはり人材の豊富さでしょう。大企業には絶対的多数の従業員がいて、毎年新卒採用も行っています。当然の事ながら、優秀と言われる従業員の数も圧倒的に多くいます。入社後に課長、部長そして役員に昇りつめるまで競争も厳しく、上に行けば行くほど優秀な人であるのは間違いありません。また日系企業では外部から中途採用を採用したとしてもプロパーの方が圧倒的に多く、企業文化も殆ど変わることはありません。すでに出来上がった企業文化の中では、その企業独特の共通言語も存在し、一を聞いて十を知るのが普通となります。会社の売上げ金額も大きく、昨今のグローバル化も進んでおり、仕事も大きな視点で捉える事を訓練されており、(好むと好まざるに関わらず)M&Aといった手法にも違和感がありません。

しかし中小企業では常に人材不足が生じています。大企業に比べると優秀と言われる人材は非常に貴重な存在で、会社の中ではヒーロー扱いです。また、まじめでコツコツとやる職人気質の方は多いのですが、戦略的な考え方や市場規模で考えるといったような大きな発想をするのは苦手としています。彼らの関心毎は社会動向ではなく、目の前の問題にどう対応するかです。同じ環境で過ごしているため考え方は似ているのですが、大企業では一聞いて十を知るが当足り前なのに対し、一を聞いて一を知るというケースが多いように思います。これは平行して同時に物事を考えて動かなければならない大企業の社員と違い、一つ一つに向き合うように育てられた中小企業の社員の方の差ではないでしょうか?時には何度言っても真意が十分に伝わらないという事も多々あります。

そうした違いは大企業しか経験していない方には理解出来ないようです。某日系大企業を退職し、外資系中小企業の日本支社社長になられた方がいらっしゃいましたが、口癖のように“駒がいない”と仰ってました。日系大企業であれば敢えて説明するまでもない事でも、300人以下の中小企業であれば、部門長に対してでさえ何を期待しているのか説明をしないと伝わりません。当然、黙っていても全てをお膳立てしてくれるような企業文化もありません。最後まで違いを理解出来ず、結局何も達成出来ないまま退任されて行きました。

そこで問題になるのは、経営・営業コンサルティングをやっている方には、大企業出身者が多いということです。中小企業ではターゲットとなる顧客も異なりますし、技術レベルも大企業とは違います。もちろん働いている従業員の絶対数も少なく、何でも出来るような人は殆どいません。大企業出身のコンサルタントとは、考え方も仕事の進め方も大きく違うのです。大企業と中小企業の違いを無視して戦略を立てても、見た目は良いものが出来るのでしょうが絵に描いた餅になってしまいます。その結果、なかなか思ったように成果が出ないというのが多いのではないでしょうか?製造改善のコンサルティングは定型があり、やるべき事に企業間の差が少ないので成果はでやすいようですが、経営・営業コンサルティングでは大きな違いとなって来ます。何事も適材適所が重要で、中小企業には中小企業の状況を理解しているコンサルタントが必要なのです。